「シュンドルボン」:ベンガル湾に広がる世界最大のマングローブの森

シュンドルボンとは?:生命が宿る水と森の世界

世界遺産登録の理由

**シュンドルボン(Sundarbans)**は、1987年(バングラデシュ側)、1989年(インド側)にユネスコ世界自然遺産 に登録された、世界最大級のマングローブ森林です。

この遺産の価値は、次の3点に集約されます:

  1. 希少で貴重なマングローブ生態系の保護
  2. 絶滅危惧種ベンガルトラの生息地としての重要性
  3. 自然災害に対する天然の防波堤としての役割

インドとバングラデシュにまたがる広大な湿地帯

  • 面積は約10,000平方キロメートル(東京の約4倍)
  • ガンジス川・ブラマプトラ川・メグナ川が流れ込むデルタ地帯
  • インド西ベンガル州とバングラデシュの国境をまたいで広がる

潮の満ち引きや川の流れによって、森と海が複雑に入り混じり、一見ジャングルのようでいて、実は水に支配された世界です。

ベンガルトラが棲む「森と海の境界」

シュンドルボンは、「森の王者、ベンガルトラ」が野生で暮らす希少な場所でもあります。

  • 約100頭が確認されており、水を泳いで移動する習性を持つ
  • この地では、トラが水辺を歩く姿が日常風景の一部
  • トラと人間が隣り合って生きる、世界でも特異な場所

マングローブ生態系の神秘

多様な植物と塩性湿地の特徴

シュンドルボンには、60種類以上のマングローブ植物が確認されています。

  • 根が地表から突き出す「気根」
  • 海水と淡水が混じる「汽水域」に適応した生態
  • 「シュンドリ」という木がこの地域名の由来(ベンガル語で「美しい」)

これらの植物は、塩分濃度の変化や強い風にも耐える驚異の生命力を持っています。

独特の生態系と水の循環

シュンドルボンの森は、潮の干満によって水位が大きく変動するため、生物たちがそれに合わせて暮らしています。

  • 干潮時には根や泥地がむき出しになり、小動物の宝庫
  • 満潮になると水が森を満たし、魚やカニ、エビが活発に活動
  • 栄養豊富な泥は、マングローブの森をさらに豊かに保ちます

洪水や高潮に強い自然の防波堤

マングローブは、地中深く根を張り、波や潮の力を吸収するため、自然災害から人々を守る大きな役割も果たしています。

  • サイクロン(熱帯暴風雨)による高潮の緩和
  • 洪水の際の水流の分散
  • 地盤の流出防止(「緑の堤防」とも呼ばれる)

希少な動植物と生態系の魅力

世界最大のベンガルトラの生息地

シュンドルボンは、ベンガルトラがマングローブ林に適応して暮らす、世界唯一の場所です。

  • 泳ぎが得意で、川を渡ってテリトリーを巡回
  • サル、シカ、イノシシ、小型ワニなどを獲物に
  • 自然の中での姿は極めて貴重で、観察はほぼ奇跡的

ワニ・イルカ・鳥類などの豊かな生物多様性

  • マレーガビアル(ワニの一種)
  • イラワジイルカやガンジスカワイルカ(淡水と汽水に生息)
  • カワセミ、コウノトリ、サギ、ワシなどの鳥類も多数

シュンドルボンは、「生き物の交差点」とも呼ばれ、陸・水・空を結ぶ複合生態系を構成しています。

マングローブの森を支える小さな命たち

  • シオマネキやカブトガニなどの干潟生物
  • プランクトン、貝類、泥に棲む小動物が食物連鎖の基盤
  • 小さな生き物が、森全体の健康を支えているのです

シュンドルボンと人々の暮らし

漁業と林業に依存する生活

この地域には、多くの人々が漁業・エビの養殖・ハチミツ採取などに依存して暮らしています。

  • マングローブの中でのハチミツ採取は命がけ(トラとの遭遇の危険あり)
  • サンダルウッドや燃料材の採取も行われる
  • 川や湿地での小規模な漁が生活の柱

トラと共に生きる村の知恵

トラによる人身被害もありながら、住民たちは敬意と恐れをもってトラと共に生きる知恵を持っています。

  • 仏像や護符を持って入林
  • トラ避けのお面(顔のようなマスク)を後頭部に着ける工夫も有名
  • 「トラは森の守り神」という信仰も存在

災害と共存するための知恵と工夫

シュンドルボン地域は、サイクロンや高潮、洪水の常襲地帯です。

  • 高床式の家屋や避難所の整備
  • マングローブの植林活動を住民参加で実施
  • 村単位での災害対策教育も進んでいます

気候変動と保護への取り組み

海面上昇と塩害の影響

  • 温暖化による海面上昇で森が水没しつつある
  • 淡水の流入減少で塩分濃度が高まり、植物の枯死も発生
  • 島が消失するケースも報告されている(気候難民の出現)

世界遺産としての保護活動

  • UNESCOと両国政府が協力して保護プロジェクトを推進
  • 定期的な生物調査と監視体制の強化
  • 観光による影響を最小限にする取り組みも進行中

持続可能な観光と環境教育

  • エコツーリズムの導入:自然観察と文化体験を両立
  • ガイド付きボートツアーでマングローブや動物を観察
  • 学校や地元の子どもたちへの環境教育プログラムも充実

まとめ

シュンドルボンは、生命と水と森が織りなす、奇跡のような自然遺産です。
世界最大のマングローブ林は、ベンガルトラをはじめとする多様な命の宝庫であり、災害から人々を守る自然の防波堤でもあります。

変わりゆく気候の中で、私たちが何を守るべきか——そのヒントが、この森にはあります。
神秘と生命に満ちた「水と森の楽園」へ、あなたも出かけてみませんか?

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